賃貸戸建ての外壁塗装|大家の修繕義務・入居者対応と経費
戸建てを貸している大家にとって、外壁の塗り替えは自宅の工事とは考えることが違います。費用を負担するのは大家でも、足場に囲まれて暮らすのは入居者です。工事のタイミングを誤ると、入居者の不満や退去、空室期間の長期化につながります。費用を経費として処理するときにも、見積書の書き方が後から効いてきます。
この記事では、民法の賃貸人の修繕義務と国土交通省の賃貸住宅標準契約書を原文で確認したうえで、入居中に塗るか退去後に塗るかの判断、入居者への事前通知の内容、工事中の生活への影響、国税庁の「修繕費とならないものの判定」に沿った経費の考え方を整理します。法令と税の記述は2026年10月15日時点で確認した内容です。一般的な塗装費用の目安は外壁塗装の費用相場で扱っています。
入居者の暮らしに配慮した工程まで比べる
外壁塗装見積ナビで見積もりを依頼する際は、賃貸中の戸建てであること、入居者の連絡先を誰が持っているか(大家か管理会社か)を伝えましょう。金額だけでなく、入居者への案内文や工程の組み方も施工店ごとに比べられます。
賃貸戸建ての外壁塗装は誰が負担する修繕ですか
賃貸戸建ての外壁塗装は、原則として大家(賃貸人)が判断し、費用を負担する修繕です。根拠になるのは民法の賃貸借の規定で、入居者(賃借人)の側にも、工事を受け入れる義務と、傷みを知らせる義務があります。主な条文と、外壁塗装での意味を並べると次のとおりです。
| 条文 | 定めている内容(要旨) | 外壁塗装での意味 |
|---|---|---|
| 民法606条1項 | 賃貸人は、使用と収益に必要な修繕をする義務を負う。賃借人の責めに帰すべき事由による修繕は除く | 経年劣化による塗膜の傷みやシーリングの切れは、大家が手当てする |
| 民法606条2項 | 賃貸人が保存に必要な行為をしようとするとき、賃借人は拒めない | 建物を守るための塗り替えは、入居者に工事を受け入れてもらえる |
| 民法607条 | 賃借人の意思に反する保存行為で、賃借の目的を達せられなくなるときは、賃借人は契約を解除できる | 生活が成り立たないほどの制限をかければ、退去につながり得る |
| 民法607条の2 | 賃貸人が通知を受けても相当の期間内に修繕しないときなどは、賃借人が修繕できる | 雨漏りなどの連絡を放置しない |
| 民法615条 | 賃借物が修繕を要するとき、賃借人は遅滞なく賃貸人に通知する | 入居者からの「壁が剥がれている」などの連絡が点検のきっかけになる |
国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)も、第9条で貸主が必要な修繕を行うこと、貸主が修繕を行う場合はあらかじめ借主に通知すること、借主は正当な理由がある場合を除いて修繕を拒否できないことを定めています。標準契約書は使用が義務づけられたものではないため、実際の契約書で修繕と費用負担の条文、特約の有無を先に読み直してください。
一方で、入居者が物をぶつけて外壁を割った、無断で外壁に穴を開けて設備を付けたといった場合は、606条1項ただし書きの「賃借人の責めに帰すべき事由」に当たるかを検討します。その部分の補修費の扱いは塗り替え全体とは分け、見積書でも別項目にしてもらうと話し合いの材料になります。
塗り替えの時期は入居中と退去後のどちらがよいですか
時期を決める出発点は、建物の傷み具合です。国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」は、共同住宅を主な対象とした資料ですが、修繕の目安として外壁の塗装を11~18年目、屋根の塗装・補修を11~15年目と示しています。あわせて、1年に1回などの定期点検と、台風や地震の後の臨時点検で不具合を早く見つけることを勧めています。戸建て賃貸でも、築年数だけで決めずに点検結果を見て判断する考え方は同じです。
傷みが進んでいなければ、入居者の入れ替わりに合わせる選択肢もあります。入居中と退去後では、工事のしやすさと賃貸経営への影響が次のように変わります。
| 比べる点 | 入居中に塗る | 退去後(空室中)に塗る |
|---|---|---|
| 入居者への影響 | 足場・窓の養生・洗濯物・駐車の制限を受けてもらう | 影響はない |
| 工程の組みやすさ | 在宅時間や車の出入りに合わせる必要がある | 窓まわりや室内側の確認も含め、工程を詰めやすい |
| 空室期間 | 工事による空室は生じない | 工事期間の分、募集開始が遅れる |
| 募集への効果 | 次の募集時には塗り替え済みの外観で出せる | 写真撮影や内見を工事後の外観で行える |
| 注意点 | 苦情や退去の申し出への対応を準備する | 退去が決まってから施工店を探すと、着工までの待ちが空室を延ばす |
雨漏りやサイディングの浮きなど、放置すると室内に被害が出る症状がある場合は、退去を待たずに工事を検討してください。民法607条の2により、大家が相当の期間内に修繕しないと入居者が自ら修繕できることになり、費用の扱いをめぐる行き違いのもとになります。逆に、色あせ程度で急ぐ理由がなければ、更新や退去の予定を聞いたうえで、空室期間と重ねる計画も立てられます。
退去後に塗る場合でも、見積もりは退去が決まる前に取っておくと空室を延ばさずに済みます。現地調査は外から見られる範囲で先に行い、入居者に立ち会いや敷地への立ち入りをお願いする日は、調整して事前に伝えましょう。
入居者への事前通知では何を伝えればよいですか
入居中に工事をするなら、入居者への通知は「工事をします」という知らせだけでは足りません。入居者が知りたいのは、いつ、何ができなくなるかです。標準契約書の第9条は修繕の事前通知を貸主の義務としていますが、通知の時期や形式までは定めていません。工程が固まったら、足場を組む日より余裕をもって書面で知らせましょう。管理会社がいる場合は、大家・管理会社・施工店のどこから案内を出すかも先に決めておきましょう。
通知文には、少なくとも次の内容を入れておくと問い合わせが減ります。
- 工事の目的(建物を保護するための外壁と屋根の塗り替えであること)と施工店名
- 足場の設置日と解体日、全体の工期と雨天時の延長の扱い
- 高圧洗浄の日(窓を閉めてもらう必要があること)
- 窓の養生期間と、その間の換気・エアコン室外機の使い方
- 洗濯物を外に干せない期間、ベランダに職人が出入りする日
- 車や自転車の移動をお願いする日と、代わりの置き場の有無
- 庭やベランダに置いてある物の移動をお願いするか、施工店が移動するか
- 工事中の連絡先(施工店の現場担当、大家または管理会社)と、苦情や破損があったときの窓口
庭やベランダなど入居者が使っている部分に職人が入る日は、事前の承諾を得ておきましょう。標準契約書の第16条も、管理上特に必要があるときに貸主が物件内に立ち入る場合は、緊急時を除いてあらかじめ借主の承諾を得るとしています。洗濯物の外干しを再開できる時期の考え方は外壁塗装中の洗濯物で詳しく説明しています。
隣家への挨拶も忘れがちな点です。戸建て賃貸では入居者が近所付き合いを担っているため、施工店の挨拶回りに大家の連絡先を添えてもらうと、入居者が苦情の窓口にならずに済みます。挨拶の範囲と業者に任せる部分は外壁塗装の近所挨拶を参考にしてください。
工事中の生活への影響と家賃の扱いはどう考えればよいですか
入居中の外壁塗装で入居者の負担が大きいのは、足場と飛散防止ネットに囲まれる期間と、窓を開けられない期間です。工程ごとの主な影響を事前に把握しておくと、通知文も具体的になります。
| 工程 | 入居者の生活への主な影響 |
|---|---|
| 足場の組立て・解体 | 金属音と作業車の出入り。駐車場が使えない時間がある |
| 高圧洗浄 | 窓を閉めておく必要がある。水が飛ぶため洗濯物や自転車を片付ける |
| 養生・下地補修 | 窓がビニールで覆われ、開けられない期間が始まる。シーリング工事では窓まわりに職人が近づく |
| 下塗り・中塗り・上塗り | 塗料のにおい。ベランダの手すりや床を塗る日は出入りできない |
| 付帯部の塗装・完了確認 | 雨どいや破風板など細部の作業。手直しの後に足場を外す |
窓の養生の期間は、塗装面ごとに外すかどうかで変わります。換気ができない日が続くと入居者の負担が大きいため、面ごとに養生を外せるか、エアコンの室外機を使える日を確保できるかを施工店に相談してください。在宅で仕事をする入居者もいるため、騒音の大きい作業の時間帯をあらかじめ伝えておくと苦情を防げます。
家賃については、民法611条1項が、賃借物の一部が使用・収益できなくなった場合に、その割合に応じて賃料が減額されると定めています。通常の塗装工事で建物の一部が使えなくなることは多くありませんが、ベランダや駐車場が長く使えないなど、入居者の不便が大きい場合は申し出を受けることもあります。法的な減額に当たるかどうかとは別に、駐車場の代替費用の負担や、工事期間に合わせた配慮を事前に示しておくと、話し合いがこじれにくくなります。判断に迷う場合は、管理会社や弁護士などの専門家に相談してください。
外壁塗装の費用は修繕費と資本的支出のどちらになりますか
貸している建物の外壁塗装費は、不動産所得の計算で扱います。国税庁のタックスアンサー「No.1379 修繕費とならないものの判定」(令和8年4月1日現在法令等)は、通常の維持管理や修理のための支出は必要経費になる一方、資産の使用可能期間を延長させたり価値を高めたりする部分は資本的支出として区別し、減価償却の方法で各年分の必要経費に算入するとしています。区別は名目ではなく実質で判定します。
同じページは、次の場合は修繕費として必要経費に算入できるとしています。
- おおむね3年以内の期間を周期として行われる修理・改良などであるとき、または一つの修理・改良などの金額が20万円未満のとき
- 資本的支出か修繕費か明らかでない金額があり、その金額が60万円未満のとき、またはその資産の前年末の取得価額のおおむね10パーセント相当額以下であるとき
これらに当たらない場合でも、所得税基本通達37-14の「区分の特例」で資本的支出と修繕費に分ける方法が認められています。外壁の塗り替えは、劣化した塗膜を元の状態に戻す工事であれば維持管理の性格が強いと考えられますが、外壁材を張り替える、別の外壁材を重ねるカバー工法にする、断熱などの機能を加える、といった内容が含まれると判断が変わり得ます。個別の判定は税務署や税理士に確認してください。
判定の材料になるのは見積書と請求書の内訳です。塗装、シーリング、下地補修、付帯部、外壁材の張り替えなどが「一式」でまとめられていると、どの部分が原状回復でどの部分が改良かを説明しにくくなります。契約前に工事項目ごとの金額を分けてもらい、施工前後の写真と一緒に保管しましょう。自宅の外壁塗装との制度の違いや、業者に頼む書類は外壁塗装の確定申告に必要な書類で詳しく説明しています。
賃貸戸建ての見積もりで施工店に確認すること
賃貸物件の外壁塗装では、施工店によって入居者対応への慣れに差が出ます。自宅の塗装と同じように塗料や単価を比べるだけでなく、次の項目を各社にそろえて聞いておくと、工事中のトラブルを減らせます。
| 確認する項目 | 施工店ごとに差が出やすい点 |
|---|---|
| 入居者への案内 | 案内文の作成・配布を引き受けるか。大家・管理会社の確認を経てから配るか |
| 連絡体制 | 入居者からの問い合わせを誰が受けるか。大家への報告の頻度と方法 |
| 工程の組み方 | 洗浄・ベランダ塗装・駐車制限の日を事前に確定して知らせられるか |
| 見積書の内訳 | 塗装・シーリング・下地補修・付帯部を項目ごとに分けているか。張り替えなどの改良部分を区別しているか |
| 書類の宛名 | 見積書・契約書・請求書・保証書を、建物の所有者名で発行できるか |
| 記録 | 施工前・施工中・完了時の写真を、次の修繕や税務の説明に使える形で渡してもらえるか |
| 破損時の対応 | 入居者の車や物を汚した場合の保険と、連絡の流れ |
国土交通省のガイドブックは、修繕の後に図面や現場写真などの記録を残すことが次の修繕に役立つとしています。賃貸物件では大家が現場に毎日来られないことも多いため、写真付きの報告をどの頻度でもらえるかは、施工店を選ぶ大事な判断材料です。見積書の比べ方の全体は外壁塗装の見積もりの取り方と見積書の見方を参考にしてください。
よくある質問
入居者がいる賃貸戸建てでも外壁塗装はできますか?
入居中でも工事はできます。民法606条2項は、賃貸人が保存に必要な行為をしようとするとき賃借人は拒めないとしており、建物を守る塗り替えはこれに当たると考えられます。ただし生活への制限が大きいため、足場・洗浄・窓の養生・駐車の制限の日程を書面で事前に伝え、協力をお願いする形で進めましょう。
入居者から外壁塗装の工事を断られたらどうすればよいですか?
まず、断る理由を聞いてください。在宅勤務や介護、夜勤など生活上の事情であれば、工程や作業時間の調整で解決できることがあります。標準契約書は正当な理由がある場合を除いて修繕を拒否できないとしていますが、話し合いがまとまらないときは管理会社や専門家に相談し、一方的に工事を進めないようにしましょう。
外壁塗装の工事中は家賃を下げる必要がありますか?
塗装工事をするだけで家賃を下げなければならないと定めた規定はありません。民法611条は、賃借物の一部が使用・収益できなくなった場合に割合に応じて賃料が減額されるとしているため、ベランダや駐車場が長期間使えないなど不便が大きい場合は、入居者と話し合う余地があります。不便の程度を工程表で示し、代わりの駐車場の手配などの配慮も含めて検討してください。
貸家の外壁塗装費は一度に経費にできますか?
工事の内容によって変わります。国税庁のタックスアンサーNo.1379では、通常の維持管理や修理のための支出は必要経費になり、使用可能期間を延ばしたり価値を高めたりする部分は資本的支出として減価償却で経費にするとしています。塗り替えと改良の部分を見積書で分けてもらい、判定は税務署や税理士に確認してください。
管理会社に任せている場合、大家は何をすればよいですか?
工事の発注者として、工事の範囲・予算・時期を決めるのは大家の役割です。入居者への通知や問い合わせ対応を管理会社と施工店のどちらが担うかを契約前に決め、大家が受け取る報告の内容と頻度も取り決めておきましょう。管理会社の手配する施工店に任せる場合も、見積書の内訳と保証書の名義は大家自身で確認してください。
まとめ
賃貸戸建ての外壁塗装は、民法606条により大家が行う修繕で、入居者は保存に必要な工事を拒めません。その一方で、生活への制限が大きすぎれば退去や家賃の話し合いにつながるため、入居中に塗るか空室中に塗るかを建物の傷み具合と入居の予定から決め、足場・洗浄・養生・駐車の制限を日付入りで事前に伝えることが大切です。
費用の経理では、国税庁の基準に沿って修繕費と資本的支出を区別します。見積書で塗り替えと改良の部分を分け、写真と書類を所有者名で残しておくと、税務の説明にも次の修繕計画にも使えます。施工店を比べるときは、価格に加えて入居者対応と記録の残し方も確かめましょう。
入居者対応まで含めて施工店を比べる
外壁塗装見積ナビで見積もりを依頼する際は、賃貸中か空室かと管理会社の有無を伝え、案内文の対応、工程の組み方、見積書の内訳の分け方まで各社に示してもらいましょう。